盛土で造られた霊園 from W-san


7月11日の観察会に参加したWさんからの報告を掲載します。

参考のため、この霊園工事の経過をドローン撮影をした「ネイチャシネプロ 吉田嗣郎」さんの画像も掲載させてもらいました。この画像は「渋沢丘陵を考える会」のホームページからのもので、当該HP掲載には吉田様より了解を得ています。

<上記写真 左:2015.1.14 工事開始前の深い谷に刻まれた渋沢丘陵の森/右:16.9.3 大々的に削られた同箇所>

 

2021年7月3日に熱海市伊豆山地区で土石流があり、大変な被害が出ました。そのきっかけとなり被害を拡大させたのが源流に運び込まれた大量の盛り土と聞いて、思い出したのは渋沢丘稜の「湘南森林霊園」のことです。中村川源流の尾根を削った土で急峻な谷を埋めて作った霊園です。

 

富士山の宝永大噴火で東側の広範囲に大量の火山灰が降り積もり多くの生き物が絶滅した時、渋沢丘陵(大磯丘陵の北西部)の八国見山の南面は、谷が入り組んだ複雑な地形が幸いして多種の生き物が生き延びたそうです。大磯丘陵は丹沢山塊と相模湾の間にあり、その中でも、現在霊園になってしまった谷は生物多様性の保存にとって特別に重要な意味を持っていました。

<写真は現在の霊園東側から見下ろしたところ 正面がアナザーワールドの尾根 その向こうは箱根>

 

計画を知り、多くの自然保護団体が結集して「渋沢丘陵を考える会」を立ち上げ、2013.3.10に秦野市内でシンポジウムを開き、地形を活かした霊園に計画内容を変更することを求めましたが、虚しく終わりました。

 

霊園建設の計画を知った昆虫研究者が調査したところ、新種も含めて多種多数の甲虫が見つかり、ここの重要性が裏付けられましたが、精緻な調査をしている傍らで破壊は進んだのでした。

 

 生物多様性の大切さとは別に、もしも私が中村川の下流に住んでいたらどう思うだろうと考えました。霊園反対の活動を始めた頃から、全国で大雨による激甚災害が頻発し、線状降水帯という言葉も耳にするようになっていました。自分の家の上流で山を削って、盛り土で谷を埋める大工事があると聞いたら反対するのが人情ではないでしょうか。下流の、身の危険を感じる人が反対運動に加われば大きな力になると思いました。

 

<写真は2015年4月12日 工事中の現場・進入道路>

 

当時、考えを同じくする仲間3人で工事現場下流の集落の数軒を訪ねて回りましたが全く関心を寄せて頂けませんでした。よそのことに口出しはしたくもないしされたくもないという雰囲気でした。熱海・伊豆山の土石流の後の今なら、どんな反応があるのだろうと想像しています。

 

霊園造成では、明るい雑木林を形成していた木々を伐採し、枝を切り、大型の作業車で効率良く丸太を積み上げ、片付け、赤土の尾根を削り、谷を埋めていきました。素人の目分量では削った土より埋めて盛った土の方が多いように感じましたが、外から土砂などは一切持ち込まないとの約束でした。本当に持ち込まれなかったか、信じきることはできません。

 

排水のための大口径のパイプが埋められるのは見ました。しかし、いくら大きなパイプでも、集中豪雨の大量の雨水を数本のパイプで排水することは可能なのか、それが機能するのはどのくらいの期間なのか疑問です。

<写真は2015年4月12日 工事中の現場・伐採樹木が累々>

 

2021711日、観察会「渋沢丘陵歩きたい」の日、ホトトギス、ホオジロ、ウグイスなどの元気な声を聞きながら霊園の周囲を歩き回ってきました。

 

峠のバス停から、会で「アナザーワールド」と呼んでいる自然豊かな森を目指します。雑木林の尾根(霊園の南西)をコウヤボウキを踏みつけないように気を使いながら下ったら、イチヤクソウの群生が実をつけていました。

八国見山の南尾根も10年前はこんな静かな緑豊かな尾根でした。あの尾根は削られ、木々も草花も谷筋の多様な生き物も今はいません。

 

霊園の事務所や駐車場を見下ろした後、引き返して霊園に向かいます。

<写真は峠からアナザーワールドに向かうところ>

霊園の広大な平地(東京ドーム4.5個分とか!)は尾根を削った土で谷を埋めた盛り土で出来ています。八国見山の電波塔の下の二つの三角の法面は尾根が削られ断ち切られた跡です。出来てから今までに大雨が何度かありましたが、今のところ無事のようです。

 

最近は数十年に一度という大雨が年に何度も降ります。百年に一度、千年に一度の大雨が来ても盛り土は大丈夫でしょうか?

 

霊園から八国見山へは200段(?)の階段を登ります。疲れ切ってしまい、山頂には寄らずに電波塔管理道を歩いたら土砂崩れがありました。山側の斜面が掘り取られてえぐれていた所が大雨で崩れて道の下まで流れたようです。

 

ヤマユリの咲き誇る道を下り、バスに乗って渋沢駅に戻りました。アスファルト道を歩くには厳し過ぎる暑さでした。

<写真は霊園南から八国見山を見たところ 三角の法面は山の南面を削った跡>